「話さない人の話」を聞かない~あえてするにはワケがある(後編)

「『話さない人の話』を聞かない~あえてするにはワケがある
(前編)」では、

それ以上深く踏み込んでは聞かなかった。
あえてそうした時が、戦争を体験した祖父の話でした。

こんにちは。佐藤さおりです。

前編はこちら:
https://hataraku-mochiaji.com/2024/08/reasons-for-daring-not-to-listen-to-and-to-ask-deeply-someone-who-will-not-talk/

「戦争の話を聞いて、感想文を書きなさい」という宿題を出された、小3~4年(9歳前後?)のわたしが、

【人が、話さずして、全身で語る】姿を目の前にし、
「さおんちゃん、その宿題の話はね、答えられない…」と言われた。

さて、その後、どうする?今回は【後編】です。

わたしはおじいちゃんの様子に、あまりにびっくりして固まって
しまい、何も言えなくなりました。

そして、パニックでした。おじいちゃんの反応に。
そして何と言えばいいのか。さらに戦争の話とその宿題に。

すると、その様子をどこからか見ていたのか、
おばあちゃんが「ちょっとお買い物に行こう」と言って、
外に出ることに。歩きながら途中でピタッと立ち止まると、

「さおんちゃん、あの話は、わたしにもせったことないくらい、
それだけコワい、思い出すのもイヤな思いしたんでねえのかや。
だすけ、あの話はもうせんでくんねかね…」

(※新潟の方言(上越弁)だと思う:

あの話は、わたしにも言ったことがないくらい、
それだけ恐い、思い出すのも嫌な思いをしたんじゃないのかな。
だから、あの話はもうしないでもらえないかな…

という意味かと。)

最初は、飲み込めず理解できませんでした。

小学校3~4年生(9歳前後?)のわたしには、
ワケが分からず、頭の中が「?」でいっぱい、
パニックになるばかり。

おじいちゃんにお話ししてもらえない…。
何か怒らせちゃったかな、嫌われちゃったかな。

緊張と何かとてもコワい感じとでとにかく圧倒されてました。

「話せない・話さない」には何かワケがあるのかも

ただし、おばあちゃんが幼いわたしにも察しがつくように、
少し理解の手助けをしてくれたように思います。

【あの話は、わたしにも言ったことがないくらい、
それだけ恐い、思い出すのも嫌な思いをしたんじゃないのかな。】

と伝えてくれたから。

【話さずに、全身で伝えてくる】なんて。
それくらいコワくてイヤでたまらない。そんな思いをしたのかもしれない。

普段は優しいし、何でも率直にしゃべってくれる、
あのおじいちゃんが、

【よくは分からないけど、
「話せない・話さない」。それには何かワケがあるのかも。】

そのことダケは、ようやく事態が飲み込めました。

今振り返って補足すると、もしかすると、

戦争の話は、子ども(=未成年)には
刺激が強すぎるだろうし、理解できないのではないか?と、
悪影響を懸念したのかもしれません。

ただ、そのことを差し引いても、

人が話をする時、自分の体験した出来事とその時の思いに
再び向き合い、思い出す。

それは、何でも、いつ・どこでも、そう簡単なことではない。
そんな場合も、時としてあります。

その後、大人になるにつれ、
日々の生活で、
また相談対応の仕事の現場で触れていく中で理解できるようになっていきました。

当初、ワケが分からず頭が真っ白、パニックになったのは…

それは、その時の自分が幼く未熟だったこともあって、

人に聞いたら、
・その人は話をするものだ
・その話は分かる・理解できるものだ

さらに、
・宿題はやるものだ

これらを「当たり前」だと思っていたからか、と今では思います。

さあ、宿題はどうする?

さて、宿題をどうしたかというと…

もうこれは、悩みました……。

考えた結果、わたしは、この宿題は出さないことに決めました。

【おじいちゃんが戦争の話を「話せない・話さない」。
よく分からないけど、それには何かワケがあるのかも。】

これだけを手がかりに
「おじいちゃんを、宿題から、先生から、クラスの意地悪してくる奴らから(出たとしたらだけど)守るんだ!」

と何だかなけなしの勇気を振り絞って、
先生と教室のクラスメートにはこう伝えました:

おじいちゃんに、「さおんちゃん、その宿題の話はね、
答えられない…」と言われたこと。

おばあちゃんには「あの話は、わたしにも言ったことがないくらい、
それだけ恐い、思い出すのも嫌な思いをしたんじゃないのかな。
だから、あの話はもうしないでもらえないかな…」と言われたこと。

代わりになるか分からないけど、千葉の自分の家に帰ってから、
テレビや本で戦争の話を見聞きするにはしてみたこと。

だけど、コワくなったり気持ち悪くなってしまい、
1週間ほどよく眠れなくなったこと。

緊張と不安のあまり、ほぼ半泣きになりながら、
とにかく先生をにらみつけて、
「これがわたしの宿題です」と言って席に着きました。

で、どうなったか?

先生もクラスメートも「しーん」としちゃいました(^^;)

2学期が再開し、極度の緊張と、なけなしの勇気で話したものの、
その後、先生もクラスメートも特に何も言ってきませんでした。

(アレ?それも、どうなの?と今は思うんですが。)

その時間が終わると、親友のYちゃんだけ、反応してくれました。
何だか迫力がすごかった、さおちゃんの宿題は、すごくすごかっ
た。すんごく先生のこと、にらんでたもん、と(笑)

わたしにとっては極度の緊張と不安だったからなんだけど、
先生をにらみつけてたので、クラスメートもとにかく驚いたよう
でした。

Yちゃんとゲラゲラ笑って、もうコワかったんだよー、眠いしさー
ああ疲れたよーとか言って、
家に帰ると、もうエネルギーを使い果たしたのか、泥のように眠りこけました。

祖父がわたしに教えてくれたこと

その時に、さらに大人になって、
後から気づき学んでいったこと。
それは、前編で書いたこの3つと…

①ただ単に話をすること以上に、
【人が、話さずして、全身で語る】こともある
、ということ。

②人間には(自分にも他人にも)それぞれワケ・事情がある。
土足で踏み込んではいけない“心の領域”がある。

だから、ただ単に話を聞くこと以上に、
その人の気持ちと意思を大切にする
のだ。

ただ単に学校の宿題をやること以上に、
自ら目の前の問題に向き合って考え抜き、
自分なりの納得解をつかんで、次につなげる。

さらに加えて、この2つでした:
④他人の話を聞くには、
それを汲み取れるだけの器と力が要る。

(同時に、話し手にもそれが伝わっていることも必要。この場合は話し手の祖父に。)

⑤1つ1つ、時と場合によっては、宿題の問い・問題課題の設定
や、その設定者(学校や先生)を疑うことも大事。

設定者は、問いや問題課題と、それに取り組む相手に向き合う姿勢も大事。

あ、あと、その1~2年前に遭ったいじめの影響で、
クラスメートや先生のことを、いじめに遭ってなくても警戒してた
のですが、

おじいちゃんを守るんだって思ったら、火事場の底力のようなもの
で乗り切れたこと。自分の力だけじゃなくって、
人の力で動けるってのもすごいんだな。

振り返って、そんなことも思いました。

気づいたらどうする?と後日談

この時の祖父(祖母)の姿勢、
そして、それに触れて学ぶ機会を得た、小さなわたしなりの、
さらに大きくなるにつれてつかんだ“答え”。

日本や海外の戦争の話、心の傷の語りに触れていきつつ、
これからも、毎年8月や、祖父母の月命日に改めて思い出し、
振り返ってみようと思います。

さて、あなたなら、
相手に「その話は話せない」「答えられない」と言われたら、
その人にはどう向き合い、接していきますか?

ちなみに、今年、テレビでの戦争特集を家族で見ていたところ、
母いわく、

「わたしも戦争の話、お父さん(わたしの祖父)から聞いたことなかったんだよね。」
「なぜか、パパ(わたしの父)はちょっと聞いたことがあるんだって」とのこと。

子や孫には聞かせられなかったけれど、
娘婿にはかえって話しやすかったのかもしれません。

妻や子、孫には話せないことが、
この人には話せる。

親しく近い関係性でも、
いや、だから話せないけど、
ほどよい距離感の第三者の存在が、必要になる時もあるんだなあ。

今年はそんな発見もあったのでした。


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